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名古屋高等裁判所 平成3年(う)221号 判決 1992年1月27日

本籍

長野県木曽郡南木曽町吾妻二六四九番地

住居

名古屋市千種区城山町一丁目三五番地

会社員(元会社役員)

麦島善光

昭和一一年七月一四日生

本籍

名古屋市瑞穂区彌富ケ丘二丁目二七番地

住居

同 内方町一丁目一一番地

会社員(元会社役員)

麦島善太郎

昭和一四年一二月六日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、名古屋地方裁判所が平成三年七月一七日言い渡した判決に対し各被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は検察官和田英一出席のうえ審理して次のとおり判決する。

主文

原判決中被告人両名に関する部分を破棄する。

被告人麦島善光を懲役二年、被告人麦島善太郎を懲役一年六月に処する。

原審における訴訟費用は原審相被告人株式会社ユニホー、同株式会社麦島建設と連帯して、被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣旨は弁護人石原金三、同高澤新七、同山岸赳夫、同向田文生共同作成の控訴趣意書及び弁護人石原金三作成の控訴趣意資料追完書に、これに対する答弁は検察官和田英一作成の答弁書に記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は原判決の量刑が執行猶予を付さなかった点においても刑期の点においても重すぎて不当であるというにある。

しかし本件は、住宅の建築及び販売等を営む株式会社ユニホーの代表取締役であり、建設業等を営む株式会社麦島建設の取締役会長でもある被告人善光が、建設用仮設資材の架空仕入れを計上する等不正の方法でユニホーの二年分の法人税合計約一億二五〇〇万円をほ脱した事案と、同被告人と麦島建設の代表取締役である被告人善太郎とが共謀し、前同様の方法で麦島建設の三年分の法人税約五億一二〇〇万円をほ脱した事案とからなるものである。量刑に当たってまず考慮されるのは、ほ脱総額が極めて巨額であること、平均ほ脱率も麦島建設の場合約六〇パーセントまでに達していることである。経営者として万一に備え資金を保留しておきたいという動機とて格別酌量に値するものではなく、その態様も、あらかじめ架空計上額に関する年間計画を立てて、虚偽の記帳をしたり、虚偽の領収書を用意する等作為的積極的なものである。なかでも被告人善光は麦島グループの総帥として本件犯行を企画したうえ、ほ脱によって得た財産の大半を手元に納めていたものであり、善太郎に比してより強く非難される。してみると、ユニホー、麦島建設ともほ脱事実を全て認めたうえ修正申告に応じ、修正本税や重加算税等を完納したこと、マンションと株式を除くこれまでの留保資産が両社に返還されたこと、本件の責任をとって両社の役員を辞任するとともに各種公職も辞し、また再発防止のため両社の組織改革等がされたこと、本件の発覚によってそれなりの社会的制裁を受けたこと、建設会社の分野において地域社会に貢献してきた面も見られること、被告人善太郎には被告人善光に引きずられた面が見られること、その他反省状況等原審時における所論諸事情に原判決後マンションと株式がユニホーに戻されたこと、被告人善光が一六〇〇万円、同善太郎が一〇〇〇万円の贖罪寄附をしたことを加えて考慮しても、被告人両名に執行猶予を付すことは考えられない。もっとも、原認定にかかるほ税の規模と、これら諸事情とを合わせ考慮すると、被告人善光を懲役二年六月、同善太郎を懲役二年の各実刑に処した原量刑は刑期に関しては重すぎるものといわざるを得ず、論旨はその限りで理由がある。

よって、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決中被告人両名に関する部分を破棄し、同四〇〇条但書により更に判決する。

原判決の認定した罪となるべき事実に原判決掲記の法条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田孝夫 裁判官 澤田経夫 裁判官 片山俊雄)

平成三年(う)第二二一号

○ 控訴趣意書

被告人 麦島善光

被告人 麦島善太郎

右の者らに対する法人税法違反被告事件の控訴趣意は左記のとおりである。

平成三年一〇月二四日

主任弁護人 石原金三

弁護人 高澤新七

弁護人 山岸赳夫

弁護人 向田文生

名古屋高等裁判所刑事第一部 御中

第一点 刑訴法第三八一条、刑の量定不当。

一、原判決は公訴事実をそのまま認定した上、

被告人株式会社ユニホーに対し罰金三〇〇〇万円

被告人麦島善光に対し懲役二年六月

被告人株式会社麦島建設に対し罰金一億二〇〇〇万円

被告人麦島善太郎に対し懲役二年

に各処すると言渡したが、そのうち両法人に対する罰金刑は確定のため措くとして、右被告人麦島善光と被告人麦島善太郎に対する懲役刑の各実刑判決は、以下の事実関係に鑑みてその量刑が著しく重く不当で、同被告人ら(以下控訴人善光、控訴人善太郎と各略称する)に対しては、刑を減じた上刑執行猶予の言渡しが相当であるとの理由があったもので、破棄を免れず、御庁での再審査を賜るべきものと思料する。

以下、考慮せらるべき事実関係を簡潔に指摘する。

(一) 本件公訴事実は、起訴状記載のとおり、株式会社ユニホー(以下単にユニホーと略称する。)につき二期分、合計金一億二四九三万円余、株式会社麦島建設(以下単に麦島建設と略称する。)につき、三期分合計金五億一一九一万円余のほ脱であり、ユニホーの平均ほ脱率が二五パーセント余、麦島建設のそれが六〇パーセント余になっているところ、右法人ら並びに控訴人両名は第一回公判期日において、すべての公訴事実を自白し、何らこれを争っていない。

国税査察官に対する控訴人善光の平成元年一月三一日付上申書及び同年三月二二日付質問てん末書、同じく控訴人善太郎の平成元年二月一七日付「不正経理の状況を記載したキャンパスノートの記載内容について」と題する上申書及び同年三月一六日付質問てん末書の各記載、並びに中島洋二の第一〇回公判期日における証言によれば、控訴人両名は、本件ほ脱事件の査察段階においても、国税査察官に対し事案を否認することなく、全面的にほ脱事実を認め、関係資料の説明、上申書の提出等に真摯に応じて、早い時点で修正申告をしているのであって、本件査察に協力的であったことは一件記録上明白と認められるのである。

(二) 次にユニホー及び麦島建設両法人のほ脱による留保資金は、すべてその大部分を控訴人善光、一部を控訴人善太郎において保管・管理していたが、控訴人両名がこれを個人的遊興、奢侈等のぜいたくにはもちろん、その他ダーティな使途に利用したことは皆無で、よって資金の散逸がなかったため、本件査察段階の過程で、留保資金は正規の法人経理に移管され法人の修正申告を経て、ほ脱にかかる法人税、事業税はもちろん、延滞税、重加算税並びに地方税等の全部を遅滞なく完納できて、国家に対する損失補填が取りあえず完了していることは、控訴人らの前出上申書及び田辺安夫の第六回、樋口繁男の第三回公判期日の各証言によって認められるところである。

なお、右納付の日時・金額等の明細が判然としていないため、当審で資料により立証し、明確にする予定である。

(三) また本件違反について、控訴人両名は深くその非を反省しているところであり、控訴人善光の平成二年八月三〇日付及び控訴人善太郎の同年一一月三日付各陳述書、並びに田辺安夫、河井充夫、樋口繁男、高岡次郎の公判廷における各証言によって、控訴人両名は社外の役職はもちろん、それぞれ法人の代表取締役、取締役を辞任して、その経営を新執行部に委譲し、また人事面の組織を充実し、特に経理面については有力な税理士または公認会計士を関与させることとして、二度と本件の如きほ脱事件を起こさぬことを控訴人両名のみならず、右関係者一同これを公判廷で誓約して、よって信頼し期待し得る改善措置が実施されていることが認められるので、もはや両法人において今後再犯の虞れは絶対に存在しないものと思料される。

(四) 株式会社ユニホー、株式会社麦島建設は、もと控訴人善光が昭和三三年、弱冠二二歳で始めた建築業を基礎に、昭和三九年には一時倒産の憂目を見るなど(この経験が、後に会社に裏資金を留保しようとした本件の動機となった)の危機を克服し、粒々辛苦・質素・勤勉を旨として精励の結果、今日「麦島グループ」として愛知県地方での建設業界に有力な地位を占めるに至ったが、その原因は控訴人善光による「麦島式アパート」の考案を初めとし、常に庶民のニーズを探求して利便な住宅の供給並びに管理の工夫とサービスに注力したことにある。その意味で多大の社会的貢献を果たしてきたし、今後もこれを継続させていく必要がある。控訴人善光の平成二年八月三〇日付陳述書を見れば、創業以来の同人の涙ぐましい努力の経過を理解するに難くないところである。

麦島グループの発展に伴い、これを成し遂げた控訴人善光はもとより、控訴人善太郎も次第に業界の役職やその他団体の役員等に就任したりしてきたが、このように控訴人両名が多数の社員を抱えて建設会社の分野を通じて、社会に尽くしてきた功績は必ずしも小さくないもので、このことは原審で取り調べられた多数の感謝状・表彰状により評価せられるものと思料する。

(五) しかるに本件について、控訴人両名が検察庁にて逮捕されたことは、結果的に控訴人らにとり決定的に大きな社会的制裁であった。逮捕、起訴、原判決等が、その都度新聞、テレビ、ラジオ等のマスコミにより報道された結果、控訴人両名とも、これまで築き上げて来た社会的信用も地位も一度に失い、業界の公職はもとより、会社の代表取締役、取締役各辞任の止むなきに至った。今日マスコミの影響の及ぶ広さ並びに強さについては多言を要しない。あまつさえ高校生らのいる控訴人らの家庭において、登校拒否、会話不在等家庭環境も激変し崩壊寸前ともいえる状態で、甚大な影響を与えているところであり、控訴人らはこの点においてもすでに取り返しのつかない社会的制裁を受け、また受けつつある情況にあって、深く深く反省悔悟しているところである。

そして、一方において近時いわゆるバブル経済の崩壊に伴い、社会経済状況は好況にかげりを生じ、業界の先行きも不透明のとき、控訴人善光をはじめとし、控訴人善太郎を実刑にて収監することは、両法人にとっては存亡の危機を招く虞れもあるところで、控訴人らの深く懸念するところであるから、控訴人らに対しては、今回に限り実刑を免がれしめ、右贖罪の気持ちをもって自ら及び法人のため、更生努力させるのが意義ありと思料するのである。

二、原判決は(量刑の理由)として、<1>本件がその態様、結果において悪質・重大であること、<2>動機において、ほ脱をして将来の倒産に備えるという経営者にあるまじき判断をしたものであること、<3>納税義務を怠りながら地域・業界団体の公職につき、また地域業界の先進を標榜するなど控訴人に倫理観の欠如が感じられることを指摘し、刑責は重いと判示した。

右<1>については、全体的に控訴人善光が中心となり、麦島建設については控訴人善太郎がこれに協力したものであることを含め、悪質・重大なことは免がれず、深く反省していること前述したとおりである。

しかし、右<2>、<3>の判示の趣旨は、決してこれに反論するものではないが、一般事業人として業界並みの納税を心掛け(善太郎陳述書一二枚目裏)、また極力業界に尽くしていた控訴人らに対して、思いがけない指弾であり、改めて三思反省しているところである。

原判決はその後段において、「本件が発覚した後、被告人らは捜査官に対しその罪を認め、所定の重加算税等も納付し、前期の留保資産も被告人両会社に戻されたこと、被告人善光、被告人善太郎は被告人両会社の経営者の地位を後進に譲り、公職も辞退するなど反省の態度が顕著であり、また両名にはこれまで前科前歴がないのみならず、相当の社会的貢献もしてきたこと、………中略………等被告人らに酌むべき事情も認められるものであり、」と判示しているように、相当の社会的貢献をしたことや、前科もなく反省の態度の顕著な点も認定していることであるから、前記<2>、<3>の判示は、控訴人らに対していささか酷な表現に過ぎると考えられるもので、控訴人らに対しては、その軽率を戒め、特に社会的指導的地位に従い、一層自省を深め、法令の遵守に細心の心掛けをもって当たるべき立場にあったとの判示が相当ではなかったか。また、両会社の存続すなわち多数の社員、取引先及び顧客のためには、将来とも引き続き会社の健全経営に努めさせるとの配慮が必要ではなかったか。これを要するに、前段の刑責の重さというも、直ちに実刑にはつながらない場合に相当することを慎重に判断されるべきものと信ずる。

三、本件ほ脱事件は、ほ脱額・ほ脱率からみて、巨額悪質との非難を免れないと弁護人も思料するが、両名に対して各懲役二年を超え二人合計で四年六月の実刑は、同種事件に比しても甚だしく重く、いかに一罰百戒といえその程度を超えたものと思料せざるを得ない。

原判決の「量刑の理由」については、前記二、のとおりで、原審裁判所がどの点で実刑処分をしたのかは必ずしも明確といえない。そこで証拠として取調べられた平成二年二月三日付検察官宇井稔作成の「同種事犯の量刑事情に関する検察官の捜査報告書」により、各事例毎に添付の判決書を検討してみると、

<1> 吉村武雄事件

この件は、二法人でほ脱額八億七九〇万円余にのぼるが、求刑が懲役二年六月で、一審判決は懲役一年四月。しかも第二審ではさらに減軽され「懲役一年」である。しかもそのほ脱率は、一法人約八六パーセント、一法人約九六パーセントと高く、留保資産も奢侈のため使用されているのが実情である(特に控訴審判決書)。

<2> 瀬川重雄外一名事件

この件は特殊公衆浴場経営を主とする八法人にかかる案件で、これを実質経営するオーナー瀬川と同人を補佐するため八社の経理全般を統括していた石飛洸が共謀の行為者とせられたところ、合計ほ脱率五億五、八〇〇万円余であるが、ほ脱率は平均約九七パーセント(中には一〇〇パーセントもある)と甚だ悪質事案と言えるが、オーナー瀬川に対する求刑が懲役三年、一審判決は懲役二年となり、石飛については求刑わずか懲役一年、一審判決はそれに三年間の刑執行猶予が付されている。判決は瀬川に対しては、「当初から税金を正当に納める気持ちは全くなく、……中略……多額の金員を家族や愛人の生活費、飲食遊興費その他個人的使途に費消した」と厳しく非難されている(瀬川につき控訴棄却)。

<3> 金泰守外一名事件

この件は、パチンコ店を経営する法人の代表者と、専務取締役にかかる事件であるが、法人税ほ脱額、三億二〇〇〇万円余、ほ脱率八一・五パーセントのほかに、個人所得についても金泰守は所得税三億三四四〇万円、金泰奉は所得税七億四八五二万円を各ほ脱したまさに巨額悪質な事犯といえるが、その求刑は金泰守につき懲役二年六月罰金一億円、金泰奉につき懲役二年六月罰金二億円。判決は懲役刑のみ見ると両名とも懲役一年六月と軽減されている。

<4> 山本清事件

この件は、不動産の売買・仲介を業とする法人の案件で、四期にわたるほ脱額二億二二七八万円余と比較的少ないと言えるが、ほ脱率は、四期平均で八八・六八パーセントと極めて高い。求刑懲役二年六月、一審判決一年六月の実刑であるが、求刑が比較的重いのは、事案が昭和五六年から五九年と時期的に古く、また新潟県郡部という地域性から大きい事件と見られたと思料されることと、山本清が多岐にわたる主張をし、特に昭和五六年から五八年度を対象として、既に一度国税局の査察を受けた後も、従来よりある程度多く申告さえしておけば二度と続けて査察調査を受けることはないであろうと甚だ不遜な考えから、従前と同様の手段方法により脱税工作を継続した点で反省がなく、特に悪質と非難されているものである(控訴関係は不明)。

<5> 福本修也事件

この件は、調理器具の卸販売等並びに小売販売等の二法人によるほ脱額合計は三億三六〇〇万円余、そのほ脱率は通算で九九パーセントを超える高率なものであった。求刑懲役二年六月、一審判決は一年六月と軽減された(控訴は棄却)。

福本は税務調査を免れるため帳簿も備えず、また本店所在地を移転するなど犯情悪く、また顧問税理士が積極的に脱税を従慂等指導したものと責任転嫁を図っている点で特異な事例と思料する。

<6> 小林健二事件

この件は、特殊公衆浴場を経営する二法人によるほ脱額一億七九四七万円余、ほ脱率平均八四・七五パーセントのほか、小林個人経営にかかる同種浴場の二店の所得を免れようとし、昭和五六年分一年でほ脱額五九九〇万円、ほ脱率八四パーセント。小林に対する求刑は懲役一年六月及び罰金二〇〇〇万円、判決は懲役刑について一年二月とされた。小林のほ脱額は比較的多くないが、詐欺罪により懲役刑(猶予付)に処せられた前科があるほか、暴力団関係と交際し、高級クラブ、競馬等の遊興資金、家族の海外旅行費用等の専ら私的欲求を満たす動機の脱税であり、内容虚偽の申告書を提供して捜査の妨害工作をした等及びなお業界から脱退しない等悪質と認められた(控訴関係は不明)。

<7> 仁木恭男事件

この件は、健康機械器具等販売を業とする法人であるが、代表者仁木は東京都新宿の地上げに関与し、無免許で不動産の売買をし、ほ脱額四億四八二〇万円余、ほ脱率七二パーセント。仁木に対する求刑は懲役二年、判決は一年六月であるが、仁木は宅地建物取引業法違反も併せて起訴されている上に、過去に私文書偽造、同行使、詐欺、業務上横領の罪により懲役刑(猶予付)に処せられた前科があり、ほ脱の態様が大胆・悪質、かつ虚偽の更正請求をするなど、法無視の態度が顕著で、さらに判決に至るまでも当該年度の法人税を二〇〇〇万円余しか納付していないことを総合し刑責は重いとされた。

<8> 加藤年男事件

この件は、不動産売買、仲介業務等を業とする法人で、三事業年度でほ脱額九億二三一四万円余、ほ脱率八八・八三パーセントにのぼる大型事件で、併せて宅地建物取引業法違反も起訴されている。

加藤に対する求刑は懲役四年であったが、判決は二年六月となっている(控訴人善光と同じである)。

しかも加藤は、既に法人税法違反により、昭和五七年五月一八日東京地方裁判所で懲役一年、三年間執行猶予の判決(法人は罰金一三〇〇万円)を受けながら、何ら自省することなく、実兄弟等から架空領収書を徴する方法等により大型脱税をしたもので、さらに証拠隠滅工作をするなど、「その刑責は非常に重い」とされている(控訴関係は不明)。

<9> 寺西直美事件

この件は、名古屋市で不動産売買仲介業を営み、昭和六一年八月一日から六二年七月三一日までの事業年度において、ほ脱額六億八一五一万円余、ほ脱率八一・一パーセントの脱税をしたもの。求刑は懲役三年六月、判決は一年八月と軽減の上実刑となった。

寺西は、脱税を計画した夫が直腸癌に冒された後、その情を打ち明けられ、蓄財のため自ら主体的に遂行するに至ったものであるが、判決当時においても本税のほか付帯税につき多額の未納付分が残っていたことに、特異な犯情が存する(控訴関係は不明)。

以上通観した結果、実刑を科す場合には、ほ税額が巨額で、とくにほ脱率が高いこと、過去に前科や、または査察調査を受けた前歴があること、所得税法違反その他の法令違反があること、ほ税目的が専ら私欲を満たし、よって奢侈遊興等に使用されていること、ほ税にかかる本税、付加税が納付されていないこと、業務が社会有益性に乏しいこと等、だれが見ても悪質と言える事情の存在が認められる。そして実刑の場合の刑期については慎重に判断され、とくに刑期は求刑よりも可成り大幅に軽減されていることが看取できるのである。

これら事例と本件とを仔細に対比してみるに、本件ではほ脱額が可成り多額というべきものの、以上個別に指摘したような特異な悪質性は存在せず、その点で犯情は軽いといえる。また刑期の点においても例えば、極めて悪質な前記<8>と同等であり、<1>、<2>、<3>、<9>等よりも甚だ長期であることは、明らかに量刑上の不均衡を示しており、到底理解に苦しむところで、畢竟原判決の実刑及び刑期は著しく重く首肯し難く、特異な悪質性のない点で、本件はむしろ実刑を免がれしめる相当の余地があるものと思料する。

四、仮に原審の段階で、刑執行猶予が不相当で、どうしても実刑を免れぬ場合とすれば、その責任の大半は控訴人善光に負担させるのが相当であり、控訴人善太郎については、その犯情からみて刑執行猶予の処遇が相当かつ必要であったと思料する。

(一) ユニホー及び麦島建設においては、控訴人両名が、各別に代表者の立場にあったわけである。控訴人善太郎は、静岡大学理学部理学科卒業と同時に、実兄である控訴人善光の経営する建設業に参加したが、今日いわゆる「麦島グループ」は二社とも創業者である控訴人善光の強い個性とリーダーシップの統括主宰の下にあり、本件ほ脱も同控訴人の指導、指示によったことは、第一〇・一一回公判期日における村上正義の証言により明白で、まことに検察官指摘のとおりである。

そこで、控訴人善太郎が代表であった麦島建設の法人ほ脱額が、三期合計で多額にのぼったのであるが、仮設材料の架空支入工作、売上金前倒しの方法、留保資金の保管等重要なことは、いずれも控訴人善光の計画・指示に基づき、控訴人善太郎は、これに従い協力をしていたものと認められる(善光の平成元年一二月八日付検察官調書、善太郎の同年一二月六日付検察官調書)。控訴人善太郎は「二人で協議して」と述べ、控訴人善光の立場が軽くなるよう表現しているが、それは実兄をかばう弟の心情から出たものに過ぎず、実情は麦島建設社員小澤春海の平成元年一二月一一日付検察官調書(長文のほう)記載のとおりで、「会長」と呼ばれていた控訴人善光にすべての実権があり、控訴人善太郎はその意向に沿わざるを得なかった立場が社内的にも明らかであったことを認めるに十分である。

従って控訴人善太郎は麦島建設の代表者として、また実弟として同社の違反に深く関与したといってもあくまで従たる立場に過ぎないものであって、その犯情は酌量されるべきである。この種事件において処罰をみるのは最高の行為責任者一人が通例であり、例えば前記三の<2>瀬川重雄事件の石飛洸の場合もその犯情は十分斟酌されているように、少なくとも控訴人善太郎に対しては懲役三年の求刑の高さもさりながら、懲役二年の実刑は余りに重きに過ぎて到底首肯されない量刑である。

(二) 次に控訴人善光については、仮に実刑を免れぬとすれば前記三.の各実刑事例に比して、その犯情及び違反後の情況、身上等に鑑み、刑の均衡上も懲役二年六月は刑期が長期に失していて、違法を免れず、大幅に軽減されるべきものと思料する。

第二点 刑訴法第三八二条の二、刑の量定不当。

控訴人両名について、原審弁論終結後における次の事実は、前記第一点で述べた諸事情に併せて、一層刑を減じた上、刑の執行を猶予すべき相当の情状あるものと思料する。

一、控訴人両名は、原判決を受け判決書を読んで、自己の非違の大きさを深く反省するとともに、御庁において、改めて謝罪し、反省を誓約する(控訴人善光の上申書写添付、控訴人善太郎の上申書はすみやかに補完する)。

二、両法人が同族会社である点は、今直ちに何ともし難いところであるが、少なくとも法人と個人とを峻別する立場上、原審での留保資産を個人に流用したとの検察官の指摘に対し、明確な事実を説明できなかった点を控訴人善光は深く謝罪し、原判決後に、六甲のマンションとホーシンの株式とをいずれもユニホーに名義移転をして返還譲渡した(土地登記簿謄本、取締役会議事録、株券受領書写添付)。

三、また控訴人両名とも、社会的に贖罪したい誠意の下に、控訴人善光は金一六〇〇万円、控訴人善太郎は金一〇〇〇万円を各拠出し、愛知県内における刑余者及び非行少年の更生保護団体である財団法人中協園外同種三法人に対して均等に各金六五〇万円宛の特志寄付を行った(上記各法人の組織書及び領収書八通写添付)。

四、本件法人のユニホーは平成三年八月八日金三〇〇〇万円、麦島建設は同年八月九日金一億二〇〇〇万円の各罰金を納付し、その責任を果たした(各領収書添付)。

五、近時、世上で顕著な大型脱税事件(例えば地産グループの竹井博友事件等)が摘発された中で、元環境庁長官稲村利幸代議士に対するほ脱額一七億円余の所得税法違反事件の求刑がなされたが、それは懲役三年六月、罰金五億円で、懲役刑において、控訴人善光と同一であることから、顕著な地域的不均衡がみられる。ご検討を求め当審で立証する予定である(新聞切抜き写添付)。

まとめ

以上のとおりであるので、御庁におかれて、格別のご詮議を賜り、是非とも原判決を破棄の上、更に適正なご判決を仰ぐ次第である。

以上

平成三年(う)第二二一号

○ 控訴趣意資料追完書

被告人 麦島善太郎

外一名

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、先に提出した控訴趣意書記載第二点の一について、被告人麦島善太郎の「上申書」を別紙のとおり追完いたします。

平成三年一〇月二八日

右弁護人(主任) 石原金三

名古屋高等裁判所刑事第一部 御中

上申書

被告人 麦島善太郎

私に対する法人税法違反事件に関し、左記のとおり私の現在の心情等を上申させて頂き、何卒よろしくご理解賜りますようお願い申し上げます。

平成三年一〇月二六日

右被告人 麦島善太郎

名古屋高等裁判所刑事第一部 御中

一、判決後の個人的心境

判決(平成三年七月一七日)を聞いた時、私は非常なショックを受けました。と申しますのは、いろいろと協力していただいた税理士の先生や弁護人の先生方から受け取っていた結果の予想とは、あまりにも食い違っていたからであります。

後日送達された判決文を読み返してみて、感じたことを率直に書いてみたいと思います。

先ず、私が今回の事件を引きおこした理由の「過去に経験をした“会社倒産”というみじめで、社会的罪悪を伴う事柄から、二度とこのような事を繰り返してはならないという信念から云々」という動機について、判決は単に「自らの経営能力の不十分さにつき何ら反省することなく、経営者として到底採ってはならない判断をしたこと」という言葉で片付けられたことであります。

会社の倒産は、必ずしも経営能力の欠如だけで起きるものでなく、予想も出来得ない外的な要因が絡むことがありますので、このような時に備えておこうと思うことは、経営者として当然でありますが、当社が毎期、業界において平均的な納税してきたことの理由で、脱税が許されるものでないことを改めて思い知らされました。

次に業界の公職や地域活動(PTA及びロータリークラブ等)等で、社会的な貢献をしたことなどについても、「脱税」という違法行為をやりながらでは世間を欺く「倫理感の欠如を感じさせる」という言葉で解釈されました。即ち、すべてのことが、脱税という行為のために、黒く塗りつぶされてしまったのだと、これは思ってもみなかったことで本当に悲しく、絶望的な気持に陥り、今更の如く今回のことが悔やまれました。

二、麦島建設の現状

いざなぎ景気を追い越すほどの今回の好景気も、証券、金融、不動産等の最近の一連の事件が示すごとく、そのバブルがはじけて、この先は、どこ迄落ち込んでゆくのかその先が見透せない程不気味な状況になりつつあります。

麦島建設は、今回の第一審の判決にそのまま従うことにして、多額な罰金を納めました。それは、早くこの事件にけりをつけて、本業の回復にあたらなければ、これからやってくる不気味な不況にやられてしまうからであります。

一億二、〇〇〇万円という罰金額は、会社経営にとって大変な痛手であり、又、本件により、監察官庁より指示待ちということになっていますが、業務停止命令がくることを特に心配しております。同業他社が、これに乗じて、営業的に足をすくう行動に出たり、また私が平成元年一一月に逮捕された時と同じように、客離れが起きつつある事は、日常の営業活動においてはっきりあらわれてきております。外的条件が悪くなり、競争激化の中にあって、新聞やテレビによる報道で、一般に知られた結果、営業面に重大なマイナスをきたしております。内部的にも、私が気の抜けた状態で居ることによる社内の活力の低下を否めないように思われます。

このままでゆくと、法人として生き抜いてゆけるのか、不安ばかりが募る危険な状況であります。

三、今後どうしなければいけないのか

このような状況では、私の責任によって、過去にあったような「会社の倒産」という事態を招きかねず、それこそが社会的罪悪であり、絶対避けてほしいことと思います。それには、私が営業面での力を発揮して、会社に再び活力を呼び戻すことが、最も必要です。私は一四六名の社員や家族、下請や顧客のためにも必死で働かなければならないと思います。

私がこのまま会社で働いても、もう昔のように、権力を行使し、同じ事態が再発するという事はありません。そのように、組織改革がなされ、チェック機能が働く仕組みが新社長をはじめ、全社員に定着をしておりますので、この点は、絶対に心配ありません。

私は今度の事件を経験し、精神的、肉体的に、又、個人としても社会的にもその受けた苦痛と制裁の大きさに打ちのめされました。二度と再びこのような愚かな行為は繰り返したくありません。

今回の行為にしても、私が麦島建設の社長としてもう少ししっかりしていれば、起きなかったものと深く反省いたします。昭和三九年の「倒産」というみじめな経験をしたことから、自分達の会社は、自分達で守らなければならないという意識が強すぎたために引きおこしましたが、私の意識より数倍その思いと苦痛を味わった兄(善光)に、ついつい引きずられ、早くやめようと、私がとめればよかったのですが、逆に協力をしてしまったのが、間違いのもとであったと、自分自身深く悔いております。

なお、逮捕されたという不名誉なことについて、私は、逃走も証拠いんめつの意志もありませんでしたから、逮捕される理由はなかったのではないかと思っておりましたが、国税局の取り調べの時に書いた「売上げの前倒しは、即、脱税をカムフラージュするための悪質で計画的な行為だというのを打ち消したい」と発言したのが原因で逮捕されたものですが、そのことについても今回の裁判を通して、お手数をかけたことを心から反省をいたしております。

再度、このような事は絶対しないことを誓います。どうか刑の執行を猶予していただき、早く会社を正常に、いや今迄と違って立派な運営が出来るように引き続き働かせていただきたく切にお願いを申しあげます。

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